大動脈弁形成術とは

大動脈弁形成術 大動脈弁形成術

自分の弁の手術に、
自分の弁を「残す」という
選択肢があります。

大動脈弁形成術について

大動脈弁形成術とは?

大動脈弁に対する外科手術には、大動脈弁を切り取って、新しい人工弁を植え込む「大動脈弁置換術」と、大動脈弁を修理してその機能を回復させる「大動脈弁形成術」の2種類があります。

心臓と血液循環

血液循環の仕組み(肺循環・体循環)

私たちの体の中を血液は絶え間なく循環しています。その中心にあってポンプの役割を果たしているのが心臓です。全身に新鮮な酸素を送り届けた後の、どす黒い静脈血は、まず右心房に戻ってきます。右心房から右心室に行った血液は、肺に送られて新鮮な酸素を取り込んで真っ赤な動脈血になります。右心房と右心室の出口にはそれぞれ三尖弁、肺動脈弁があり、血液が逆流しないようになっています。動脈血はいったん左心房に戻り、僧帽弁を介して筋肉が発達した左心室に送られます。左心室の筋肉が強く収縮することにより動脈血は全身の隅々までめぐることができるわけです。全身に送られた血が、また心臓に戻ってこないように、左心室の出口には大動脈弁があります。

大動脈弁の役割

このように心臓は4つの部屋と4つの弁で構成されています。弁は血液がスムースに流れ、一方通行を逆流しないような役割を果たしています。

なかでも大動脈弁は、左心室と大動脈という、最も血圧の高い部位を隔てており、その役割は重大です。

大動脈弁断面図

大動脈弁形成術と弁置換術

弁の手術は大きく分けて2種類

大動脈弁狭窄症には「大動脈弁置換術」が行われることがほとんどです。大動脈弁閉鎖不全症にも以前は「大動脈弁置換術」しか方法がありませんでしたが、最近になり「大動脈弁形成術」が行われるようになってきました。「大動脈弁形成術」は英語で“aortic valvuloplasty”/“AVP”というので”AVP”という略語を使うことがあります。

残す(形成術)

残す(形成術)

自分の弁を修理して、本来の力を取り戻す方法。
抗凝固薬が不要になる可能性があります。

取り替える(置換術)

取り替える(置換術)

新しい部品(人工弁)に取り替える方法。
広く行われている標準的な治療法です。

我々は、自己心膜を使用して大動脈弁を作成する方法は、ステントレス弁による弁置換と同じと考えており、弁形成術とは捉えておりません。

大動脈弁疾患も大きく分けて
“大動脈弁狭窄症”と”大動脈弁閉鎖不全症
(逆流症)”
に分けられます。

大動脈弁自体が硬化する”大動脈弁狭窄症”では、自己弁を温存することは困難でありますが、
“大動脈弁閉鎖不全症”であれば自己弁を温存(形成)できる可能性があると我々は考えております。

手術の様子

弁置換術と比較した
大動脈弁形成術の
メリット

01.

抗凝固薬の
内服が不要

機械弁と異なり、生涯にわたる抗凝固薬の内服が不要になる可能性があります。

02.

感染性心内膜炎の
リスクが低い

人工物を使用しないため、感染性心内膜炎のリスクを抑えられます。

03.

若年の方では
メリットあり

再手術のリスクや妊娠・出産への影響を考慮すると、若年層に適した選択肢です。

しかし、全ての方に適応となる術式ではありません。適応の可否については、専門的な評価が必要となります。

大動脈弁形成術が必要となる病気

大動脈弁閉鎖不全症の主な原因は、次のように分類されます。

これらの弁がうまく機能しなくなった状態を弁膜症と呼びます。弁を扉に例えると、蝶番が錆びて、扉が開きにくい、あるいは完全に開ききらない状態を狭窄症と呼びます。逆に扉が開いたまま閉じない状態を閉鎖不全症と呼びます。この大動脈弁がうまく開かなくなった状態を大動脈弁狭窄症、うまく閉じ切らない状態を大動脈弁閉鎖不全症と呼びます。このような場合には、大動脈弁の機能を元通りにするための外科手術が必要となります。

大動脈弁の構造は、弁の根元にあたる弁輪と呼ばれる台座と、開いたり閉じたりする3枚の羽である弁尖で成り立っています。通常はこれらがうまく役割を果たして血液の逆流を防いでいますが、なんらかの異常により弁がうまく閉じきらないと大動脈弁閉鎖不全症が起こります。その原因は様々ですが、以下のように分類することができます。

01 弁が引き伸ばされ弁尖同士が支えきれなくなることによる逆流

通常は弁尖同士がお互いを支え合い、弁輪よりも高い位置で弁尖同士の隙間をなくして血液の逆流を防いでいます。しかし弁が弱くなって引き伸ばされてしまうと、お互いに支え合うことができなくなり、その弁尖が他の弁よりも低くなってしまいます。するとその間に隙間が生じ血液が逆流するというわけです。

弁が折れ曲がって他の弁よりも低くなっている図
心エコー画像(白矢印は弁が折れ曲がって他の弁よりも低くなっているところ)

文光堂 月刊心エコー2022年23巻7号655, 656頁より引用(白矢印は弁が折れ曲がって他の弁よりも低くなっているところ)

02 弁輪が拡大して弁尖同士が支えきれなくなることによる逆流

たとえばマルファン症候群のような先天性遺伝子異常があると、全身の線維組織が弱くなるため、弁輪に常に血圧がかかると、弁輪が少しずつ引き伸ばされて拡大してきます。そうすると弁尖同士が支えきれなくなって、弁尖自体に異常が無くても、ついには中心に隙間ができてしまい、血液の逆流が発生します。マルファン症候群がなくても、高齢により線維組織が弱くなって弁輪が拡大することがあります。

弁輪拡大により逆流が起こる図
弁輪拡大により逆流が起こる図(2)
弁輪拡大により逆流が起こる図(3)
弁輪拡大により逆流が起こる図(4)

文光堂 月刊心エコー2022年23巻7号657頁より引用(弁輪拡大の模式図のみ)

03 通常は3枚ある弁尖が2枚しかないことによる逆流(先天性2尖弁)

大動脈弁は通常は3枚の羽でできていますが、そのうち2枚の弁が癒合して、2枚の羽しかないことがあり、これを先天性2尖弁と呼んでいます。そうすると癒合した方の弁が相対的に長くなるため、うまく支えきれなくなって低くなり、その隙間から血液が逆流するようになります。かなり稀ですが、弁が1枚しかなかったり(先天性1尖弁)、4枚もあったりすることがありますが(先天性4尖弁)、このような場合も閉鎖不全症が起きやすくなります。

大動脈二尖弁と正常弁の比較図

「インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス」より引用

04 感染性疾患

子供のころにリウマチ熱にかかった方の後遺症で閉鎖不全症になることがあります。また、歯を抜いた後などに細菌が血中に入り込み、弁に取り付いて弁を破壊してしまうことがあり、感染性心内膜炎と呼んでいます。この場合も破壊された弁の隙間から血液が逆流して閉鎖不全症となります。

05 動脈硬化

高齢になり動脈硬化が進むと、弁自体が石のように固くなり「石灰化」という状態となり、通常は大動脈弁狭窄症を発症します。しかし中には固くなった弁が開いたまま閉じなくなり閉鎖不全症を発症することがあります。

06 膠原病

関節リウマチや全身性エリテマトーデスのような全身に炎症を起こす病気では、全身の線維組織を固くしてしまうことがあります。その結果、大動脈弁の線維組織も固くなってしまい、動脈硬化による石灰化と同じ状態となり弁が閉じにくくなってしまいます。

07 外傷性

かなり稀ですが、交通事故や転倒などで胸に急激に強い力が加わると、弁に穴が開いて血液の逆流が生じることがあります。

大動脈弁形成術の適応

症状や検査結果に応じて、外科的治療のタイミングを判断します。

大動脈弁閉鎖不全症の治療の第一歩は、心臓の負担を和らげることに尽きます。そのためには塩分を控えたり、血圧を下げたり尿量を増やしたりするお薬を飲む内科的治療が中心となります。

しかし内科的治療はあくまでも病気の悪化を防ぐことしかできませんので、弁に生じている血液の逆流自体を改善することはできません。そのため、ある程度の症状が出たり、心臓の負担がある程度まで生じた段階で外科的治療を考える必要があります。

大動脈弁形成術は以下のような検査結果あるいは症状が出ている時に適応になります。

1

長期間にわたる大動脈弁閉鎖不全症により心臓が拡大している

自覚症状がなくても、心臓超音波検査(心エコー)で左心室が一定以上に拡大していると、手術をした方が長生きすると言われています。具体的には一番大きいとき(拡張期)で65mm、一番小さいとき(収縮期)で45mmを越えたら手術をした方が良いと勧められています。ただし体格の小さいかたはその限りではなく、収縮期の大きさが体表面積あたり25mmを越えたら手術が勧められています。

2

長期間にわたる大動脈弁閉鎖不全症により、心臓の機能が低下している

自覚症状がなくても、心臓超音波検査(心エコー)で心臓の機能が低下していると手術が勧められています。具体的には正常で60%以上ある左室駆出率が50%を下回ると手術が勧められます。アメリカのガイドラインでは55%を切ったら手術を考慮してもよいと言われています。

3

心不全の症状があらわれている

大動脈弁閉鎖不全症が進行すると左心室の負担が大きくなり、心不全の症状が出てくるようになります。一番多いのが、平地では大丈夫でも階段を登ったり坂道を歩くときに息切れが出てくることです。平地でも息切れが出たり、眠るときに横になると息苦しくなるようではかなり症状が進んでいる証拠です。このような症状が現れたら手術を考慮したほうが良いでしょう。心不全の重症度の判定には、以下のようなNYHA分類(New York Heart Association functional classification)をよく使用しますので参考にしてください※4。

分類 日常生活における身体活動での自覚症状
NYHA I度 症状が出ない
NYHA II度 坂道や階段を上るなどの身体活動で症状が出る
NYHA III度 平地を歩くなど、日常生活以下の身体活動で症状が出る
NYHA IV度 安静時やいかなる身体活動でも症状が出る

※横にスクロールしてご覧いただけます。

※4 NYHA分類: ニューヨーク心臓協会による、自覚症状を基準とした心不全の重症度の分類です。症状とは疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛を指します。

大動脈弁形成術の検査と診断

まずは問診でこれまでの病気やその治療歴、ご家族に心臓の病気を患っている方がいないかお聞きします。ついで息切れ、動悸、めまい、足のむくみなどの自覚症状をお聞きします。聴診で心雑音を確認後、胸部X線検査、心電図、採血を行い、最終的に心臓超音波検査(心エコー)等による検査を行います。

心臓超音波検査は大動脈弁逆流の診断だけでなく、心臓の大きさや機能を正確に評価し、重症度を判定することが可能です。まずは胸部の表面から観察しますが、手術の適応があると判断された場合には、次のステップとして胃内視鏡検査のように口から食道までプローベを進めて観察します(経食道心エコー検査といいます)。この検査により大動脈弁逆流の原因を詳しく観察することができ、大動脈弁形成術の方法をあらかじめ決めることができます。

さらに手術を安全に行うためにCT検査、MRI検査、心臓カテーテル検査などを行うことがあります。

大動脈弁形成術の方法

大動脈弁形成術は、人工心肺を使って心臓を止める「開心術」と呼ばれる方法によって行われます。

開心術を行うには、まず患者さんを全身麻酔で眠らせて、人工呼吸を施します。そして前胸部にある胸骨という骨を縦に切って心臓を露出します。ついで人工心肺という装置を用いて全身に血液を送り出す間に心臓の動きを止めて大動脈弁形成術を行います。

大動脈弁形成術の方法は大動脈弁閉鎖不全症の原因によって異なります。弁が弱くなって引き伸ばされて逆流が起こっている場合は、引き伸ばされた弁を縫い縮めることで修復可能です。

弁輪や大動脈が引き伸ばされることにより弁尖同士が支えきれなくなって逆流が起こっている場合は、人工血管で拡大した部分を取り替えることにより逆流を制御することができます。

もちろんこれらが組み合わさって逆流が起きる場合も少なくないので、人工血管で拡大した部分を取り替えて、なおかつ引き伸ばされた弁を縫い縮めることが必要な場合もあります。

最近では胸を切る大きさを小さくして身体の負担を減らす低侵襲心臓手術(MICS:ミックスといいます)が行われるようになってきましたが、肋骨の間を切って大動脈弁形成術をおこなうことはまだ稀だとおもわれます。しかし胸骨を全部切らないで部分的に切ることにより傷の大きさを小さくすることはできます。

正常な大動脈弁/大動脈弁閉鎖不全症/大動脈弁形成術後 引き伸ばされた弁を縫い縮めて修復する術中写真

文光堂 月刊心エコー2022年23巻7号662頁より引用(左図の白矢印は弁が折れ曲がって他の弁よりも低くなっているところ。右図の白矢印は、引き伸ばされた弁を縫い縮めて修復したところ。)

大動脈弁形成術の手術時間

大動脈弁形成術の手術時間は、他の心臓弁膜症に対するそれとほぼ同様です。ただし上記の「方法」の項で述べたように、1)引き伸ばされた弁を縫い縮める方法、2)人工血管で拡大した部分を取り替える方法、によって若干変わってきます。これまでの経験では1)では心臓を止める時間が100分程度、人工心肺を使って全身に血を送っている時間が140分程度です。2)では少し長くなって各々140分、180分程度になります。これに胸の開け閉めや出血を止める操作が加わりますので、全体の手術時間は4〜5時間になります。

手術時間の目安 1)弁を縫い縮める方法 2)人工血管で拡大部分を取り替える方法
心臓を止める時間 約100分 約140分
人工心肺使用時間 約140分 約180分

※横にスクロールしてご覧いただけます。

大動脈弁形成術の成功率

海外の一流施設では

約7割が大動脈弁形成術で治療可能

当院の経験では

約9割が大動脈弁形成術で治療可能

残りの割合は人工弁による置換術が必要でした(海外:約3割/当院:約1割)

この手術が原因でお亡くなりになることは稀で、当院では一人も手術直後にお亡くなりになった方はいらっしゃいません。

弁の耐久性に関しては上記の大動脈弁閉鎖不全症の原因のうち、「2.弁輪が拡大して弁尖同士が支えきれなくなることによる逆流」に関して良く調べられています。海外の施設では手術から10年から20年経っても、おおむね8-9割程度の患者さんが再手術なしで元気にしています。我が国の複数の病院を併せたデータでも、手術から5年経過した段階で、9割以上の患者さんが再手術なしで元気にしています。

大動脈弁形成術の利点・欠点

これまでの大動脈弁閉鎖不全症に対する手術は、大動脈弁を切り取って人工弁で取り替える大動脈弁置換術が一般的でした。人工弁の種類はカーボンなどで作った機械弁とウシやブタの生体組織を用いた生体弁に大別されます。

機械弁

機械弁

何もしないと弁に血栓が生じて脳梗塞などを起こしてしまうので、血栓ができないようにする抗凝固薬を一生飲み続ける必要があります。また、薬の量を調整するために毎回採血も必要になりますし、食事の制限も生じます。そのため、出血のリスクが高い職業やスポーツをしている方や、出産を予定している女性などには勧められません。

(泉工医科工業株式会社提供)

生体弁

生体弁

抗凝固薬は最初の三ヶ月以降不要ですが、若い方ほど劣化が速く進行するため、手術後10年から20年の間に再手術を必要とする確率がかなり高くなります。

(エドワーズライフサイエンス株式会社提供)

このほか、心臓を覆っている膜である自己心膜を用いて大動脈弁を置換する「尾崎法」という方法もあります。自分の組織を用いるので、大動脈弁形成術と混同されがちですが、自分の大動脈弁は全く残りませんので、大動脈弁置換術に分類され、大動脈弁再建手術と呼ばれることがあります。まだ10年以上の耐久性がわかっていないので、広く普及するには至っていません。

一方、大動脈弁形成術を受けると、抗凝固薬は全く不要になります。まだ歴史の浅い手術ですので、20年以降の耐久性はまだ不明ですが、10年から20年程度であれば、機械弁よりは少し劣るものの、生体弁よりは長持ちすることが先述のごとく分かってきています。

上記のように大動脈弁形成術にはいくつもの利点がありますが、以下のようなデメリットも考えられます。

  1. 弁の変性が強いと形成できない場合がある
  2. まだ全ての病院で受けることはできない
  3. 弁置換術より技術と経験を要するので、病院によって治療効果の差がある
  4. 長期的な耐久性が不明である

このように大動脈弁形成術にも長所・短所がありますが、抗凝固薬を服用しなくて良いなど、生活の質を考えると、とりわけ若い患者さんにお勧めできる魅力的な手術です。

手術後の生活

当院では手術後の経過が順調であれば、手術の翌日から集中治療室(ICU)で立位になってもらいます。そしてできるだけ早くから心臓リハビリテーションを開始します。そこで適切な運動強度を学び、自宅に戻ってからもリハビリテーションを継続し、社会復帰への準備をすることになります。

通常の大動脈弁形成術後の入院期間は2週間前後ですが、お若い方は10日前後で退院する方もいます。ただしこれは大きな合併症がなく順調な場合ですので、合併症に対する治療が必要な場合はこれより長くなることがあります。退院前に心臓超音波検査と経食道心エコー検査をおこない、弁の逆流が制御されていることを確認します。ごく稀に逆流が再発して入院中にもう一度手術を受けなくてはならないこともあります。

手術後はなるべく心臓の負担を減らすために血圧や脈拍数を下げるような薬を一定期間飲むことになります。3ヶ月、1年後に心臓超音波検査を行い、弁の逆流がなければ薬を減らしていくことになります。ただし元々血圧が高くて薬を飲んでいた方はその後も継続することになります。その後は1年に一回の心臓超音波検査を継続し、5年後に再発がなければ2年から3年に一回の検査を続けていきます。

日常生活上で「食事」、「運動」、「ストレス」に注意しなくてはならないのは手術前と同様です。せっかく形成した弁も、心臓に負担がかかり続けると再発してしまいます。症状がなくなって治ったと思っても、上記のように日常生活に留意して定期的に通院するようにしましょう。

術後の看護や患者さんが自分で気をつけることは一般的な心臓弁膜症手術とほぼ同様です。再発を防ぐためには、血圧の上昇を防ぐことが最も重要です。そのためには「食事」、「運動」、「ストレス」に注意しなくてはならないのは言うまでもありません。また、術後のリハビリテーションで、適切な血圧を保つ適度な運動強度を知っておくことも重要です。

手術費用について

大動脈弁形成術の費用は高額ですが、患者さんが実際に支払う額は「高額療養費制度」により所得区分に応じた月額上限までに抑えられます。ただし個室の差額ベッド代や食事代はこの制度の対象外ですので注意が必要です。詳しくは病院の窓口にお問い合わせください。以前は区役所での事前申請が必要でしたが、マイナ保険証を利用すればそれも不要です。

なお、人工弁を植え込むと身体障害者1級になりますが、大動脈弁形成術を受けると障害年金をもらうことはできません。

日本における大動脈弁形成術の現状

日本では、まだ一般的な選択肢にはなっていません。

僧帽弁においては、2011年の日本胸部外科学会の統計によると、僧帽弁手術のうち僧帽弁形成術は65%に施行されております。

一方、単独大動脈弁手術では、8589例のうち大動脈弁形成術は3.6%に過ぎず、非解離性の単独大動脈基部手術797例においても、自己弁温存手術は17%に過ぎませんでした。

これらのうち、大動脈弁逆流症と狭窄症の割合は不明ですが、それにしてもあまりにも少ない数字と言わざるを得ません。

日本胸部外科学会の集計では、2024年の一年間に全国でも104例程度しか行われていませんでした。これは大動脈弁のみの手術の1.3%に過ぎませんでした※1。

※1 Yoshimura Nほか Thoracic and cardiovascular surgeries in Japan during 2024 Annual report by the Japanese Association for Thoracic Surgery. General Thoracic and Cardiovascular Surgery. 74巻4号 Page 433-462 2026年より引用

僧帽弁手術のうち

僧帽弁形成術

65%

単独大動脈弁手術
8589例のうち

大動脈弁形成術

3.6%

非解離性の単独大動脈基部手術
797例のうち

自己弁温存手術

17%

2011年の日本胸部外科学会の統計

日本での大動脈弁形成術

大動脈弁に対し形成術が施行されているのは5%に満たない状況です。

日本胸部外科学会の統計によると、僧帽弁では弁形成術は半数以上に施行されています。
しかしながら、大動脈弁に対し形成術が施行されているのは5%に満たない状況です。
これは大動脈弁形成術が日本の限られた施設で限られた患者様にしか行われていないということを示しています。

しかし、この統計では大動脈弁狭窄症と閉鎖不全症の手術が混在しており、現状の把握には不十分でありました。

弁形成術が考慮される”大動脈弁閉鎖不全症”に限った、大動脈弁手術の現状を把握するため、我々は独自に全国調査を施行いたしました。

A nationwide survey of aortic valve surgery in Japan: current status of valve preservation in cases with aortic regurgitation. Arimura S, Kunihara T, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2017 Aug;65(8):429-434. PubMed PMID: 28646460.

本邦の大動脈弁手術の現状

全国調査結果

※ 日本全国の心臓血管外科施設の250/508施設(回答率49%)から2014年度の手術データを集計

ARに対する
単独手術

弁形成率

8%

大動脈基部手術

自己弁温存率

34%

対象疾患をARに絞っているため、日本胸部外科学会年報よりは大動脈弁温存手術の率は高く算出されていますが、依然弁温存率は低いと言わざるを得ません。

2019年に同様の調査をおこなったところ、大動脈弁閉鎖不全症に対する大動脈弁形成術の割合はさらに5.5%へと減少していました※2, 3。

※2 Arimura Sほか A nationwide survey of aortic valve surgery in Japan: current status of valve preservation in cases with aortic regurgitation. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 65巻8号 Page429-434 2017年より引用
※3 Arimura Sほか Trends of aortic valve-preserving surgery in Japan: an updated five-year nationwide survey. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 73巻12号 Page 893-901 2025年より引用

自己弁温存手術を施行数

250施設のうち

57施設

22.8%

1施設当たりの1年間の
自己弁温存手術の手術数を
集計すると

1~4例 48施設(84%)
5~9例 4施設(7%)
10例以上 5施設(9%)

1施設あたりの手術数が少ないという現状が明らかになりました。

年間10例以上の大動脈弁温存手術を施行している5施設で、集計された手術の約半数を担っている状況です。

日本の大動脈弁温存手術の現状
(弁形成術・自己弁温存基部置換術)

限られた施設での施行

限られた患者様にのみ施行

限定的な条件の中で施行されているという現状が明らかになりました。

我々は、大動脈弁温存手術の成績向上、普及を目指して今後も取り組んで参ります。

当院での治療実績

当院では大動脈弁閉鎖不全症(大動脈弁逆流症,AR)に対して、
自己大動脈弁を温存することを第一選択として治療を行っています。

心臓血管研究所附属病院で施行したARに対する手術

(2013年12月9日から2017年7月20日)

弁置換手術(AVR)

27%

32例

自己弁温存手術
(大動脈弁形成・自己弁温存基部置換)

73%

87例

合計

119例

年齢や、長期での治療効果を考慮し治療方針を決定しておりますが、ARに対しては7割を超える割合で自己弁を温存しております。

自己弁温存手術87例のうち、入院中再手術は3例(3.4%)であり、一例は再弁形成、二例は弁置換に移行しました。

在院死亡、出血再開胸はありませんでした。

これまでに退院後の再手術はなく、外来で経過観察中です。

当院の大動脈弁形成手術症例数

(2013年12月9日から2017年7月20日)

項目 非解離 解離 total
大動脈弁形成のみ 30例 23例 53例
大動脈弁温存 基部置換術(Remodeling) 22例 12例 34例
total 52例 35例 87例

※横にスクロールしてご覧いただけます。

まとめ

大動脈弁閉鎖不全症の原因が分類され、大動脈弁形成術は以前より普及してきたとはいえ、専門的な技術と経験を要するため、一部の病院でしか行われていません。したがって長期的な成績は不明ですが、抗凝固薬が不要で生体弁よりは長持ちすると考えられ、若い方にとって大変魅力的な手術です。

当院ではドイツで豊富な経験を積んできた國原主任教授が大動脈弁形成術に積極的に取り組んでおります。もし大動脈弁閉鎖不全症をお持ちで、上記のような手術の適応に達した場合には、当院の心臓外科までご相談ください。

当院では國原主任教授を中心とした大動脈弁形成術の経験豊富なハートチームが一丸となって、患者さんの個別の状態に応じた最適な治療、手術を提供していきます。

われわれは「慈恵で手術を受けて良かった」をスローガンに、患者さんファーストの質の高い医療を提供してまいります。大動脈弁閉鎖不全症でお悩みの方はいつでもお気軽にご相談ください。

國原は
計9年間ドイツの施設で大動脈弁形成術を経験。
当院では大動脈弁閉鎖不全症に対しては、
可能な限り自己弁を温存することを
基本方針として診療を行っております。

医師について詳しく知る ›
國原孝先生

ご紹介の流れ

患者さんが最適な治療を受けられるよう、地域の医療機関の先生方と連携し、
受診から治療まで一貫したサポートを提供しています。

01

ご相談

かかりつけ医・医療機関にて、大動脈弁疾患の治療についてご相談ください。

02

紹介状のご準備

診療情報提供書(紹介状)をご用意ください。
検査結果や画像データがある場合は、あわせてご準備ください。

03

初診予約・受診

心臓外科初診外来にて診察を行います。
※紹介状をお持ちください。

04

検査・治療方針の検討

必要に応じて検査を行い、大動脈弁形成術・大動脈弁置換術など、患者さんに
最適な治療方針を検討します。

05

入院・手術へ

手術が適切と判断された場合は、入院日程や術前検査についてご案内します。

i

初診には紹介状が必要です。ご不明な点は地域医療連携室までお問い合わせください。

医療機関の
先生方へ

大動脈弁疾患・大動脈基部疾患の診断・治療について、ご相談・ご紹介をお待ちしています。

  • 大動脈弁形成術の適応についてのご相談
  • 治療方針に迷われる症例のご紹介
  • 緊急症例にも迅速に対応いたします
お問い合わせ→
お問い合わせ